高次脳機能障害について
【1】高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは,脳の損傷に起因する神経心理学的症状をいいます。
典型的な症状としては,新しいことを覚えられない,ちょっと前のことを思い出せないなどの記憶障害,何をやっても長続きしない,不注意が目立つ,2つ以上のことを同時にできないなどの集中力障害,感情の変化が激しくなる,我慢ができなくなる,周囲の人に対して攻撃的な態度をとるなどの人格障害があります。
【2】外傷性高次脳機能障害の認定
⑴ 認定の困難性
交通事故における高次脳機能障害は,事故時に頭部に強い衝撃を受けたことが原因となることが多いので,MRIやCT等の機器により頭部の画像を撮影すると,画像上,出血や陥没など,大脳の表面にある大脳皮質と呼ばれる部分の異常が明らかになることがあります。
しかし,このような形態的異常は常に認められるとは限らず,大脳皮質の下にある大脳白質部の神経軸索が機能しなくなることにより高次脳機能障害が発症することもあります。この場合,脳内の神経にはダメージがあるのですが,血管の損傷等を伴わないので,画像上,大脳皮質に明確な損傷は認められません。
現在の自賠責保険実務においては,画像上大脳の形態的異常が認められるかを重視し,高次脳機能障害の有無を判断しています。そのため,交通事故後に認知障害や人格障害といった症状が起こっても,画像上大脳の異常が明らかでない場合には,交通事故による高次脳機能障害による症状と認められないケースも少なくありません。
⑵ 外傷性高次脳機能障害認定のポイント
外傷性高次脳機能障害と認定できるかについては,①交通外傷による脳の受傷があるか,②一定期間の意識不明状態が継続したか,③一定の異常な傾向が生じているかがポイントとなります。
① 交通外傷による脳の受傷があるか
交通外傷による脳の受傷の有無については,従来,MRIやCTの画像を重視して判断されてきました。現在では,MRIやCTの他,SPECT(単光子放射体断層CT)やPET(陽電子放射体断層撮影)といった機器で撮影した画像により,脳内血流の状況を確認し,脳の機能的異常の有無を判断するといった手法もあります。
しかし,MRI,CT以外のものについては,外傷性脳損傷の発見の性能について評価が固まっていません。そのため,自賠責実務においては,今もなお,MRI及びCTによる画像を重視し,外傷による脳の受傷の有無を判断しています。
② 一定期間の意識不明状態が継続したか
JCS(ジャパン・コーマ・スケール)やGCS(グレース・コーマ・スケール)といった検査により判断されます。日本では,JCSを用いることが多いです。
③ 一定の異常な傾向が生じているか
感情の起伏が激しくなる,複数の作業を並行してできなくなるなど,「人が変わった」「変な奴になった」「人が離れていった」といった変化の有無の他,歩行障害や尿失禁などの身体機能の異常にも着目します。
【3】交渉及び示談について
高次脳機能障害を発症するのは,生死の境をさまよう事故に遭い,一命をとりとめたようなケースが多いです。そのため,命が助かったことや意識を取り戻したことに安堵し,それ以上の異変に気づかないことも少なくありません。
また,高次脳機能障害は,必ずしも手足の麻痺等の身体障害を伴う症状を残すとは限らず,被害者本人やそのご家族が異変に気付くまで,相当長期間を要することもあります。
交通事故に起因する高次脳機能障害があると認められた場合,予想外に損害額が大きくなることも珍しくありません。
万が一,ご家族がこのような状況に陥ってしまった場合には,交渉や示談をご自身で行わず,一度,専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。